本ページはプロモーションを含みます。

PLUTO

PLUTOの感想|ロボットが壊されるたび、帰れなくなる家がある

PLUTOの感想|ロボットが壊されるたび、帰れなくなる家がある

原作の対象巻を読む

PLUTO 1巻

対象: 1〜8巻

全巻まとめ買いの案内へ

強いロボットが次々に壊される。事件だけを並べると、PLUTOはそんな物語に見えます。けれど読み進めるうちに気になるのは、次に誰が勝つかより、誰が家へ帰れなくなるかです。

ピアノを習い始めたロボットがいる。試合から戻れば子どもたちに囲まれるロボットもいる。それぞれの暮らしを知ってから破壊を目にするので、失われたものを性能や修理費では数えられなくなります。

浦沢直樹が手塚治虫の『鉄腕アトム』の一編「地上最大のロボット」をもとに描いた作品です。単行本・デジタルVer.とも全8巻。以下、ゲジヒトの死と最終決戦を含むネタバレがあります。

刑事自身も、犯人に狙われる一人

最初に壊されるモンブランは、山で人を助け、親しまれてきたロボットです。捜査を担当するゲジヒトは、事件が世界最高水準のロボットたちを狙うものだと知ります。自分も標的に含まれている。

犯人を追う仕事と、自分の身を案じる生活が切り離せません。妻ヘレナと過ごす場面や、旅行の話が挟まることで、ゲジヒトも事件の外に日常を持っていると分かります。

ロボットを描くときの顔つきも一様ではありません。人間に近い姿のゲジヒトがいる一方、機械の形をはっきり残した者もいる。外見が人間らしいほど感情が豊か、という順番には並ばない。話を聞いているうちに、形よりもその相手の暮らしへ目が向いてきます。

ノース2号の手が、別のことを覚えようとする

戦場を離れたノース2号は、音楽家ポール・ダンカンのもとで働き、ピアノを学ぼうとします。戦闘のための装備を持つ身体で、今度は音楽に触れる。何のために造られたかと、これから何をしたいかの間に隔たりがあります。

ダンカンは最初から親切な主人ではありません。ロボットを遠ざけ、自分の過去にも触れさせようとしない。それでもノース2号は、彼が記憶している母親と音楽のことを調べ、二人の関係は変わっていきます。

この寄り道がなければ、ノース2号は強い兵器の一つとして倒されて終わったかもしれません。ピアノを続けたいという願いを知っていると、プルートゥとの戦いには、ようやく得た暮らしがまた戦争に奪われる痛みが出てくる。

死の場面を美しいものとして味わう前に、もっとここで暮らしていてほしかったと思わされます。楽器を覚えるには時間がかかる。その時間を、彼は十分には与えてもらえませんでした。

ブランドの記憶に、戦闘より先に家族が浮かぶ

格闘家のブランドには、家で待つ妻と子どもたちがいます。強者として戦う姿と、少し気のいい父親の姿が同じ人物に収まっている。ロボットの家族がいることを、作品は大げさな例外として扱いません。

彼はモンブランの仇を討とうとしてプルートゥと戦い、命を落とします。最後に仲間へ情報を送ろうとする中で浮かぶのは、家族との記憶でした。

任務に必要な情報を取り出したいのに、別の記憶が前へ出てくる。そこに、整理しきれない感情があるように見えます。情報を保存できることと、自分にとって大切なものを都合よく並べ替えられることは違う。

ゲジヒトが事件を追うほど、こうした生活の断片が増えていきます。被害者が増える緊迫感に加えて、残される人が増える寂しさも積もる。連続事件の形式が、そのまま喪失の積み重ねになっています。

戦争が終わっても、役割は外してもらえない

事件の背景には、第39次中央アジア紛争があります。高い能力を持つロボットたちは、その力ゆえに兵器として見られ、戦争と無関係ではいられませんでした。

ただし、全員が同じ選択をしたわけではありません。エプシロンは参戦を拒み、戦災孤児を育てています。強いなら戦場へ行くべきだ、という期待に従わなかった人物がいることが、この話では大きい。

戦後の彼らは、森を守り、音楽を学び、家族と暮らそうとする。それでも、かつての軍事的な価値を基準に命を狙われる。何ができるかだけで役割を決められることの息苦しさが、事件の背後にあります。

物語がロボットの能力を丁寧に説明するほど、使い道を決める側の責任も見えてきます。大量破壊を起こせる力があるとして、それをどんな暮らしに使いたかったのか。被害者たちの短い挿話は、その問いへの別々の答えです。

ゲジヒトは、正しさだけでできた刑事ではない

捜査の途中で、ゲジヒト自身の記憶にも隠されたものがあると分かります。彼は息子として育てていたロボットを殺され、犯人の人間を憎しみから射殺していました。その事実は、警察上層部による記憶の改竄で隠されています。

人間の事件を冷静に処理する刑事の内側に、制度では扱いきれなかった怒りがある。ここまで読んできた家族の場面も、失ったものを知らずに生活していた夫婦の姿として見え直します。

それでもゲジヒトは、自分が殺した相手の弟アドルフを守る仕事を引き受け、プルートゥの中にいるサハドへも目を向けます。自分に憎しみがないからできる行動ではありません。その感情で人を殺してしまった過去があるから、次に何をするかを選び直す必要がある。

しかし彼は生き残りません。プルートゥとの力比べで敗れるのではなく、操られた子ども型ロボットのアリに撃たれます。誰かを気にかけることが、生存に有利とは限らない。その厳しさまで含めて描かれています。

最後に世界を救うのは、敵だったサハド

ゲジヒトの記憶を受け継いだアトムは、プルートゥと向き合います。その中にいるサハドは、もともと祖国を緑にするため植物を研究していたロボットでした。

最後にはアトムとサハドがともに、世界を破局へ向かわせるボラーを止めようとします。サハドはアトムを生還させ、自分は命を懸けて破壊を食い止める。多くの命を奪った力を、最後には命を守るために使います。

それで過去の犠牲が消えるわけではありません。ゲジヒトも、音楽を学びたかったノース2号も帰ってこない。敵を倒した結果として取り戻せるものには、はっきり限界があります。

全8巻を読み終えたあと、強さの順位よりも彼らの家や仕事が残るのは、そのためでしょう。事件の真相を追う楽しみを持ちながら、一人ずつの続きを惜しむ作品です。ロボットに心があるかを議論する前に、もう会えないことを悲しんでいる。PLUTOは、その順番で読者を物語へ引き込みます。

本ページはプロモーションを含みます。

この編を読むなら

電子書籍ストアやAmazonで、巻別購入・まとめ買いをチェック

全巻まとめ買い

PLUTO 全巻まとめ買い

作品全体をそろえたい方はこちら。収録巻と版を各ストアでご確認ください。

※ 上記リンクから購入すると、サイト運営の支援になります。価格は各ストアにてご確認ください。