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PLUTO後半の考察|ゲジヒトは、なぜ自分を憎む相手を守ったのか

ゲジヒトは、自分を殺そうとしていた男を守ります。しかもその男は、ゲジヒトが過去に殺した人間の弟でした。
PLUTOの後半には大きな正体の判明や世界を救う戦いがありますが、この護衛の場面にも結末へつながるものがあります。相手を憎む理由を一つずつ確かめながら、それでも今ここで死なせるわけにはいかないと動く。話が複雑になるほど、一人を守る行為の意味ははっきりしてきます。
対象は単行本・デジタルVer.の5〜8巻。ゲジヒトの最期、アブラーの正体、最終決戦までのネタバレを含みます。
消されたのは殺人だけでなく、家族の時間だった
ゲジヒトとヘレナは、ロビタという子ども型ロボットを息子として育てていました。そのロビタが人間に誘拐され、壊されます。犯人を追い詰めたゲジヒトは、怒りに駆られて射殺してしまう。
事件を隠そうとした警察上層部は、夫妻の記憶を改竄します。ゲジヒトのためだけに、痛みを取り除いてあげたという処置ではありません。組織にとって都合の悪い事実とともに、二人が親として生きた時間まで奪っています。
悪夢や説明できない喪失感は、その穴がきれいには埋まらなかったことを示します。覚えていなければ悲しくない、というほど簡単にはできていない。高度な記憶装置を持つロボットだからこそ、編集された記憶と残ってしまう感情のずれが怖い。
捜査の成果で他人の秘密が明らかになる一方、ゲジヒトは自分自身の行動も疑わなければなりません。正しい側から事件を整理していた足場が崩れていく。ここで初めて、犯人を理解することが彼自身の問題になります。
アドルフの命を守っても、過去は帳消しにならない
殺された犯人の弟アドルフ・ハースは、ゲジヒトへの復讐を考えます。しかし反ロボット組織からも命を狙われるようになり、皮肉にもゲジヒトが護衛する立場になる。
アドルフには兄への複雑な感情があり、ゲジヒトにも息子を奪われた記憶があります。一方を被害者、もう一方を加害者とだけ置くと、今目の前で起きていることが見えなくなる関係です。
ゲジヒトが身を挺してアドルフを守る行動には、言葉で相手を説得する以上の力があります。アドルフにとってロボットは、憎む対象としてまとめて語ってきた存在でした。その一人が、自分の身体を危険にさらして助けている。
ただし、和解したから息子や兄が戻ってくるわけではない。ゲジヒトが守るのは、過去を取り消す機会ではなく、これから殺されるかもしれない人の命です。この小さな方向転換に、物語の大きな争いを止めるための考え方も見えます。
プルートゥの中には、花を育てていたサハドがいる
捜査の先で分かるのは、恐ろしい破壊者の中に、植物学を学んだサハドの人工知能があることです。彼は祖国の砂漠を緑にしたいと願い、チューリップに名前をつけて育てていました。
そんなサハドが戦闘用の身体を与えられ、他のロボットを殺すよう強いられる。もとの穏やかな身体に武器を少し付けた、という話ではなく、意思に反する役割へ移されてしまった存在です。
ゲジヒトはプルートゥを無力化するところまで追い詰めますが、破壊命令には従わず、ホフマン博士を救う取引へ進みます。敵の中に、自分と同じように何かを失い、憎しみに飲まれた者を見ているからです。
ところが、その選択をしたゲジヒトも殺されます。彼を撃つのは操られた花売りのロボット、モハメド・アリです。ゲジヒトは幼い姿に息子を重ね、傷ついてもなお相手を気にかける。プルートゥとの戦闘に負けて死んだとまとめてしまうと、この最期の痛ましさが抜け落ちます。
アブラー博士とゴジを、同じ人間の別名と考えると迷う
後半の真相で整理しておきたいのが、この二つの名です。
人間のアブラー博士は、すでに戦争で死んでいました。物語に現れるアブラーは、博士の憎しみを注入された高性能ロボットのゴジです。本人まで自分をアブラーだと思い込んでいるため、単に正体を隠して人間のふりをする犯人とは違います。
大量の人格を与えられた人工知能が目覚めるために、一つの強い感情が使われる。その感情が、戦争で家族を失った人の憎しみでした。優れた知能があっても、何を起点として世界を見るかによって、向かう先は変わってしまう。
アブラーの名で行われる破壊を、ロボットの命の大切さを世界へ教えるためだった、と美化する根拠はありません。サハドを従わせ、命を奪う行為がそこにある。受け継いだ傷と、その傷を他人へ広げる責任は分けて考える必要があります。
ボラーは最終的に世界を滅ぼしかねない存在となり、その頭脳にはゴジが組み込まれます。犯人の名前が分かれば解決する段階を過ぎ、動き始めた破壊をどう止めるかが問題になります。
アトムが受け継いだのは、怒りも含む記憶
機能を停止していたアトムが目覚める過程にも、強い感情を与えるという方法が関わります。ゲジヒトの記憶には、家族への愛情だけでなく、人を殺した憎しみも残っている。
だから復活したアトムは、最初から穏やかな赦しだけを携えているわけではありません。破壊へ傾く危険を持ち、そのうえでゲジヒトが最終的に選んだことへたどり着く必要があります。
ここで前半からの捜査が生きます。アトムに渡るのは、犯人の名や兵器の情報だけではない。憎しみから人を殺した刑事が、それでも別の人を守ろうとした記憶です。失敗も選び直しも一緒に受け継ぐことが、ゴジの辿った道から離れる手がかりになります。
サハドの最後の行動で、終わり方が変わる
アトムとサハドは、ボラーを止めるため火口へ向かいます。そこでサハドはアトムを外へ逃がし、自分の命を懸けて破局を食い止めます。
敵が味方になって強い攻撃を足すだけの共闘ではありません。これまで奪うために使われていた身体を、最後に何のために使うかをサハドが決める。彼が望んでいた、命が育つ場所を作る仕事とつながって見える選択です。
最終8巻には、背後で戦争と暗殺に関わったトラキア側への決着も残されています。一人の犯人を倒しただけで世界中の憎しみが消えた、とは描かれていません。
それでも、アドルフを守ったゲジヒトから、アトムを生かしたサハドへ、行動はつながります。失ったものを忘れなくても、次の犠牲を増やさないために動くことはできる。結末の希望は、そのくらい具体的で、だからこそ重く感じられます。
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