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寄生獣

寄生獣の感想|右手だけの相棒が、新一の世界を変えるまで

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寄生獣 1巻

対象: 1〜10巻

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自分の右手と相談しなければ、生き残れない。寄生獣は、そんな不便な共同生活から始まります。

泉新一の身体に侵入した生物は、脳へ届く前に右腕へ閉じ込められました。右手を占拠したミギーと、新一。どちらかが死ねばもう一方も危ういのに、考え方はまるで合いません。新一が誰かを助けたがると、ミギーはまず自分たちの危険を数える。この口論が面白く、同時に先行きが怖い。

岩明均の『寄生獣』はアフタヌーンKCの単行本で全10巻。以下、田村玲子の最期や後藤との決着、最終話まで触れます。

右手を隠すだけでも、普通の生活が難しい

ミギーはよく学び、よく話しますが、人間の都合を最初から理解しているわけではありません。目や口が右手から出てくるだけで、人前には出せない。学校や家で正体を隠す場面は、日常の中に異物がいる可笑しさを持っています。

ところが、脳を奪われた人間の姿をした寄生生物たちは、人を食べて生きています。彼らに遭遇すると、同じ異物でもミギーとの距離感とはまったく違う。見慣れた顔が割れ、身体が刃になる。普段の会話から捕食の場面へ移る速さが、序盤の恐怖です。

新一は、人間を食べないミギーと暮らすことで、寄生生物をひとまとめにはできなくなります。ただ、それは仲間として信用できるという話でもありません。ミギーが他人を助ける義務を感じていないことは、何度も示される。新一は危険な相手に一番近い場所で暮らしています。

母の顔をした相手を、敵として見られない

新一の母は旅行先で寄生生物に身体を奪われます。戻ってきた姿を目にした新一は、ミギーの警告があっても攻撃できず、胸を貫かれてしまう。

見分けさえつけば助かる、という理屈がここでは通じません。相手が母ではないと受け入れるには、自分の知っている母はもういないという事実も引き受ける必要がある。その一瞬の判断を、新一にはできなかった。

ミギーが心臓を修復して新一は助かりますが、その細胞の一部が全身に散り、身体能力も変わります。以前ならできなかったことができるようになる一方、自分の反応がどこか冷たいと感じる場面も増える。強くなって敵を倒すことと、傷つく前の自分へ戻ることは、同じ道ではありません。

里美に変化を気づかれても、事情を話せない。読者は右手の秘密を知っているので新一の側に立ちやすいけれど、里美からすれば、知っている相手が理由も告げず遠くなっていく話です。戦闘の成長が、日常では関係の難しさになっています。

加奈の思い込みを、新一は止められなかった

加奈には寄生生物の発する信号を感じ取る力があります。新一へ向かう感覚を特別な結びつきだと思うのですが、その力では新一と他の寄生生物を確実に区別できません。

新一はミギーの秘密を打ち明けて危険を伝えますが、そのときミギーは眠っていて、姿を見せられません。加奈は説明を信じず、自分なら新一の信号を区別できると思い込む。もう一度説明するための待ち合わせを待たずに出かけ、別の寄生生物へ引き寄せられて殺されます。

この死は、強敵に勝てば取り返せる敗北ではありません。新一が到着したときには、間に合っていない。打ち明ければ分かってもらえると思っていたことが、相手には届いていなかった。その隔たりが取り返しのつかない結果を招きます。

新一の涙が戻るのは、この直後ではありません。母を失ってから続いていた感情との隔たりは、さらに田村玲子との再会へ持ち越されます。

田村玲子が守ったのは、人間の赤ん坊だった

田村玲子は、人間の身体を使って子を産みます。出発点には自分たちの生態を知りたいという実験の意識があり、初めから優しい母親だったわけではありません。彼女自身、人を殺してきた存在です。

それでも、赤ん坊と過ごす時間の中で変化が起きます。終盤の公園では、警官に囲まれて銃撃を受けながら、反撃して逃げるよりも子どもを守り、新一へ託すことを選びました。

新一はその姿に母の記憶を重ね、涙を流します。敵を倒した瞬間ではなく、自分を傷つけた側の生き物が誰かを守る姿に触れて、閉じていたものがほどける。この順序に、作品の意外なやわらかさがあります。

田村を知った後では、人間の形をしているか、寄生生物かという区分だけで行動を予測できません。新一にとっての他者は、物語が進むほど一括りにできなくなっていきます。

後藤を殺すかどうか、最後は新一が決める

複数の寄生生物を統率する後藤は、新一とミギーが協力しても簡単には勝てない相手です。一度はミギーが切り離され、後藤に取り込まれる。いつも右側から返ってきた声がないだけで、新一の孤独は急に深くなります。

決着のきっかけになるのは、不法投棄されたごみの中にあった有害物質です。新一が後藤へ突き刺した金属棒を通じて毒が入り、内部の統制が乱れる。ミギーはそこから戻ってきます。人間が環境へ捨てたものが、強大な敵の身体を崩すという皮肉な勝ち筋でした。

ただし、毒で弱ったから自動的にすべて終わったわけではありません。回復する可能性が残る後藤を前に、新一は一度は立ち去ろうとし、考え直してとどめを刺します。

地球全体のために正しい判断だった、と誇れるような決着にはなっていません。新一は自分の暮らす世界を守るために殺す。相手を理解しようとする姿勢と、自分に迫る脅威を排除する行動が、矛盾を残したまま一人の中にあります。

最終話で、右手がもう一度届く

戦いの後、ミギーは深い眠りに入り、新一は日常へ戻ります。けれど最後に現れる危険は、寄生生物ではなく連続殺人犯の浦上でした。

浦上は里美を人質に取り、人間の本性を自分の暴力へ引き寄せて語ります。寄生生物より人間のほうが残酷だ、とひっくり返すだけでは収まらない場面です。誰かを殺す人間も、助けようとする人間もいる。新一は里美に向かって手を伸ばします。

落下する里美を救う最後の動きには、眠っていたミギーの助けがあります。生き延びるために仕方なく組んだ相手が、ここでは新一の大切な人へ手を届かせる。最初の共同生活を覚えているほど、この短い再会がうれしい。

大きな問いを扱いながら、寄生獣は何度も右手の届く距離へ帰ってきます。新一が世界をきれいに説明できるようになったから終わるのではなく、隣にいる人を失わずに済んだ。その安堵が、全10巻の最後に残ります。

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