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ヒカルの碁

ヒカルの碁・佐為消失のネタバレ考察|伊角との一局で取り戻したもの

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ヒカルの碁 8巻

対象: 8〜17巻

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佐為を探しているあいだ、ヒカルは碁から離れます。二人を結びつけたものが碁だったのに、自分が打つことをやめれば佐為が帰ってくるかもしれないと思ってしまう。プロになった喜びも、塔矢アキラと打つ約束も、そのときのヒカルを動かせません。

そこへ現れるのが伊角慎一郎です。佐為の事情を知らない伊角が、ヒカルと一局打つ。この対局で、ヒカルは自分の碁の中に佐為から受け取ったものを見つけます。再起のきっかけが、佐為の正体を知る人物からの説明ではないところに、この別れの切実さがあります。

対象はジャンプコミックス通常版8〜17巻。プロ試験予選は8巻から、プロ入り後の新初段シリーズは12巻、佐為の消失は15巻、伊角との再会は16巻です。この記事では合格者、佐為と塔矢行洋の勝敗、ヒカルの復帰までネタバレを含めて扱います。

合格したヒカルと、合格できなかった伊角

プロ試験では、院生の仲間も、外来の受験者も同じ合格枠を争います。和谷や伊角に助けられて大人との対局に慣れたヒカルも、本戦ではその仲間を破らなければなりません。

伊角との一局は、双方が力を出しきって実力を認め合う爽やかな試合にはなりません。伊角が打ち直しの反則をしてしまい、ヒカルが勝ちます。盤面の優劣以外のところで結果が決まり、伊角はその動揺を後の対局にも持ち越します。

最終的に合格するのは越智康介、和谷義高、進藤ヒカル。伊角は届きません。いつも冷静に見えた先輩にも、試験の中では崩れる瞬間がある。ヒカルの成長と、伊角の敗北を同じ出来事として描くことで、合格が仲間全員の祝祭にはならないと伝わります。

最終局の越智戦では、アキラが越智を指導していたことがヒカルにわかります。アキラは無条件にヒカルの合格を待っていたのではなく、その現在の力を知りたがっていました。ヒカルは越智を破り、今度こそ自分の碁でプロの席を得ます。

行洋に勝ったあと、ヒカルが別の手を見つける

新初段シリーズでは、佐為がヒカルを通じて行洋と打ちます。ただしヒカルが課した条件があり、佐為は本来の力を存分に出せる対等な勝負をできません。行洋は対局の中から相手の力を感じ取り、佐為にも、条件をそろえてもう一度打ちたい思いが残ります。(集英社・12巻)

入院した行洋がネット碁を打つと知り、ヒカルは「sai」との対局を取り持ちます。顔の見えない対局なら、ヒカルが打っているように見せる必要がありません。佐為は求めてきた相手と向き合い、激戦の末に勝利します。

ただし、佐為が行洋を一方的に圧倒したという勝負ではありません。対局後、ヒカルは、行洋が違う手を選んでいれば佐為が負けていた可能性を指摘します。勝った本人も見落としていた変化を、隣で見ていた少年が見つけるのです。

佐為にとって、この指摘は勝利以上に大きな出来事になります。自分が長く存在してきたのは、この一局をヒカルに見せるためだったのではないか。そう感じるのは佐為自身です。一局の勝者になることから、その碁を受け取って先へ進む人へと、目線が移ります。

消えたのは、もう必要のない師匠ではない

佐為は自分の残された時間を気にし始め、やがてヒカルの前から消えます。ここを、ヒカルを自立させるために佐為が進んで姿を消した、と決めつけることはできません。佐為にはまだ碁を打ちたい思いがあり、別れを自在に選べる存在として描かれてはいないからです。(15巻の出版社紹介)

ヒカルも、その別れが近いとは受け止めていませんでした。プロとして自分が打つことに夢中で、これまで隣にいた佐為が明日もいると考えていた。その当たり前がなくなってから、もっと打たせればよかったという後悔が押し寄せます。

ヒカルは本因坊秀策の故郷、因島まで探しに行きます。佐為がかつて共にいた人物の土地なら、何かがあるかもしれない。けれども、移動して手がかりを集めても、佐為は戻りません。過去の棋譜には触れられても、いつものように話しかける相手はいないのです。

ヒカルが碁を避けるようになることは、プロ意識の不足だけでは説明しきれません。自分が打つ場所を広げたせいで佐為の場所を狭めたのではないか、と考えてしまう。好きだったことそのものが、失った相手への罪悪感を呼び起こしています。

伊角が求めたのは、ヒカルとのやり直し

中国で修行して戻った伊角は、ヒカルに対局を頼みます。伊角にも、プロ試験で崩れてしまった自分と向き合う必要がありました。悲しんでいるヒカルを救うためだけに用意された訪問者ではなく、自分の続きを探している棋士です。

その一局でヒカルは、考え、石を置くうちに、かつて佐為が打っていた手を自分が打っていると気づきます。遠くへ探しに行っても会えなかった人の痕跡が、自分の手の中にあった。しかもそれは、佐為に指示された場所へ置く行為ではなく、自分で読んだ結果として現れます。(集英社・16巻)

佐為を忘れなければ碁を打てない、という選択ではありません。打つことで、受け取ったものに触れられる。ヒカルが涙を流す場面は、喪失が取り消された瞬間ではなく、喪失を抱えたままできることを知った瞬間と読めます。

伊角には佐為の姿は見えません。それでも、自分と本気で打ってくれる相手が目の前にいることが、ヒカルを盤上へ戻します。二人とも以前の試験をなかったことにはできませんが、新しい一局を始めることはできます。

アキラが見つけるのは、ヒカルが継いだ碁

復帰したヒカルは、17巻でアキラとの公式戦を迎えます。勝つのはアキラですが、以前の中学の大会のように、失望されて関係が途切れる対局ではありません。アキラはヒカル自身の強さを認め、その中にsaiの碁とのつながりも感じ取ります。(集英社・17巻)

ヒカルにとっては、自分にしかわからなかった佐為の存在へ、他人が碁から近づいた出来事です。すべてを説明しなくても、盤を挟んで受け取られるものがある。借りた力に向けられていたアキラの視線が、今度はヒカル本人へ届きます。

佐為との別れを、成長するために必要だったと簡単に言い切る必要はありません。別れずにもっと打ちたかったという悔しさも、そのまま残ります。それでもヒカルはもう一度打てる。佐為を失ったあとの物語に、別の相手と考える時間が続いていくことが、この編の救いです。

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