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ヴィンランド・サガ

ヴィンランド・サガ奴隷編の感想|畑を作る手と、殴り返さない決断

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ヴィンランド・サガ 8巻

対象: 8〜14巻

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木を一本倒しても、畑はできません。根を取り除き、土を起こし、種をまき、育つのを待つ。『ヴィンランド・サガ』奴隷編は、戦場では一瞬で人を倒せたトルフィンに、何かを作るための長い時間を過ごさせます。

その仕事を教えるのがエイナルです。二人は同じ奴隷の立場にいますが、トルフィンが戦士として奪う側にいたのに対し、エイナルは戦争で暮らしを奪われた側にいる。共に働くことは、過去を忘れて仲よくするというほど簡単ではありません。

以下はアフタヌーンKC版8巻後半から14巻までのネタバレを含みます。8巻の目次には「奴隷」「ケティル農場」が入り、エイナルとの生活はすでにここで始まります。アルネイズの最期と、農場を去る結末まで扱います。

自由を買うには、収穫まで待たなければならない

ケティルの農場で、トルフィンとエイナルは森を開墾します。収穫物を売り、その代金で自分たちの自由を買う道が用意されている。しかし、その収穫へ届くまでに道具も馬も人手も足りません。

スヴェルケルの仕事を手伝って馬や犂を借りる場面には、力任せに続ける以外の働き方があります。人に頼り、相手の仕事にも手を貸すと、できることが増える。トルフィンが戦場で身につけた素早さとは違う価値が、農作業の中で具体的に見えてきます。

復讐の対象を失ったトルフィンは、はじめから平和を愛する穏やかな人になっているわけではありません。何を望めばよいか分からず、危険にさらされても自分の命へ執着できない。エイナルが日々話しかけることで、ようやく他人と明日について話せるようになっていきます。

荒らされた畑が、殺してきた相手の生活につながる

二人が育てた麦は、奉公人たちの嫌がらせで荒らされます。自分の仕事を無意味にされる怒りは、エイナルだけのものではありません。争いの中でトルフィンも人を殴り、再び暴力へ戻ってしまいます。

その後の夢では、殺してきた者たちの存在が彼を引き止めます。復讐のために必要な戦いだったという説明は、殺された側にとって理由にならない。自分が一つの目的へ走っていた間に、他人にも帰る場所や続けたい生活があったと考えなければならなくなります。

畑の損失を経験したから過去の殺人と釣り合った、という話ではありません。自分が作る側に立ち、壊される痛みを知ったことで、ようやく他人から奪ったものへ想像が向く。贖罪の出発点は、同じだけ苦しめば済むという計算から離れたところにあります。

エイナルは、トルフィンのしたことをすべて許す代表者にはなれません。それでも現在の彼と働き、友人として接する。その関係があるので、トルフィンは自己嫌悪だけで止まらず、これから何をするかを考えられます。

アルネイズには、同じ自由への道がない

ケティルはトルフィンたちに、自分を買い戻す機会を与える農場主です。ところが、そばに置かれたアルネイズには、働けば離れられるという見通しがありません。気に入られ、大事にされることが、かえって自由を遠ざけています。

逃亡してきた夫ガルザルとの再会で、アルネイズには農場へ来る前の家族と暮らしがあったことが改めて見えてきます。ケティルの心を慰める人でも、エイナルが思いを寄せる人でもある前に、自分の過去と希望を持つ一人の人です。

ガルザルはすでに用心棒たちを殺しており、蛇は仲間の死を見過ごせません。トルフィンは二人を逃がそうと蛇と対峙しますが、相手にも守るべき関係がある。善人と悪人に分ければ誰を止めればよいか分かる、という状況にはなっていません。

ガルザルは逃避行の末に命を落とし、アルネイズは逃亡を知ったケティルに殴打されます。その傷は致命的で、トルフィンたちが連れ出した後も救うことはできません。彼女を死へ追いやるのは、普段は温厚なその農場主です。優しさと所有する権力が両立していたことが、ここでむき出しになります。

農場を襲う王も、平和を望んでいる

クヌートは大きな軍と国を維持するため、豊かなケティル農場を接収しようとします。誰もが安心して暮らせる世界を目指す王が、その資金のために目の前の暮らしを壊す。目的が大きいほど、小さな場所の損失を必要な代価として扱えてしまいます。

ケティルは寄せ集めの兵で抵抗しますが、熟練したクヌートの軍との実力差は大きく、多くの死者を出します。戦いたいと言っていたオルマルが、戦場の結果を見て、降伏を選ぶ側へ変わっていくのもこの過程です。

逃げる、負けを認める、戦いをやめる。戦士の名誉から見れば恥になる行動が、人を生かすためには必要になる。父の築いたものを守りたいという気持ちだけでは、守れる命まで失うことがあると、農場の息子自身が気づきます。

百発を受けるのは、王と話すため

トルフィンはクヌートへ会いに行きますが、奴隷の身なりでは相手にしてもらえません。そこで近衛兵から百発殴られることに耐え、会談の機会を得ます。以前なら、目の前の兵を倒して進もうとしたかもしれない場所です。

耐える場面は、何をされても我慢すればよいという教訓には見えません。トルフィンには攻撃を見て衝撃を逃がす技術があり、目的も相手の承認そのものではなく、戦争を止める話し合いにあります。戦士として得た身体の使い方を、傷つけ返さないためへ回しています。

それでも楽な方法ではなく、顔には傷が残る。暴力を避ける選択には何の痛みもない、とは描かないところが、この場面を支えています。戦って勝つのと別の意味で、簡単にはできない行動です。

クヌートを倒さず、違う仕事を引き受ける

会談でトルフィンは、クヌートの支配が届かない場所へ逃れ、王のやり方では救われない人の居場所を作ろうとする考えを示します。王を論破して改心させ、世界中の戦争が終わるわけではありません。二人は違う方法で、同じ世界の苦しさに向き合うことになります。

クヌートは農場の接収から退きます。すでに自由の身となったトルフィンは、エイナルとともに新天地を目指す道を選ぶ。ただし、アルネイズは戻りません。農場を離れられた二人が希望を持てることと、失った人を救えなかったことが、同じ結末に残ります。

奴隷編の到達点は、トルフィンがもう迷わない聖人になることではなく、人を殺さずに生きるための仕事を見つけることだと思います。麦を作るように、場所を探し、人と協力し、時間をかけなければ形にならない。その途方もなさを知ってなお、エイナルと一緒に始めようとするところに、新しい強さが見えます。

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