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ヴィンランド・サガ

ヴィンランド・サガ戦士編の感想|仇のそばで生きたトルフィンに残るもの

原作の対象巻を読む

ヴィンランド・サガ 1巻

対象: 1〜8巻

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父の仇を討つために、父の仇の役に立たなければならない。『ヴィンランド・サガ』戦士編のトルフィンは、このねじれた関係の中で成長します。手柄を立てればアシェラッドが決闘に応じる。その約束を追うほど、相手の兵団に欠かせない戦力になっていきます。

二本の短剣で大人を倒し、危険な場所へ飛び込む姿には、アクションとしての勢いがあります。けれど、強くなった分だけ自由になっているのかと考えると、そうとも言えない。戦士編は、少年の戦闘能力と人生の行き詰まりが、同時に進む物語です。

この記事はアフタヌーンKC版1〜8巻を対象とし、アシェラッドの死までネタバレを含みます。8巻は戦士編の決着と、奴隷としての次の生活の始まりが同居する巻です。

トールズは、決闘に勝っても帰れなかった

原作は戦場で働くトルフィンを見せた後、アイスランドでの幼少期へさかのぼります。父トールズは、かつてヨーム戦士団に属した戦士でしたが、家族と静かに暮らしていました。少年が強さに憧れている時、父はすでに戦いを離れる道を選んでいます。

再び戦場へ呼び戻される途中、トールズの船はアシェラッド兵団に襲われます。トールズは相手を殺さずに制圧し、アシェラッドとの決闘にも勝つ。しかしトルフィンを人質に取られ、一行を生かす約束と引き換えに抵抗をやめ、射かけられた矢で命を落とします。

ここで、父が弱かったから死んだとは描かれていないことが大切です。敵を倒す能力はあり、その使い方に別の基準を持っていた。ところが、目の前で父を失った少年には、その基準を受け継ぐ余裕がありません。父を大切に思う気持ちが、父の選んだ生き方から息子を遠ざけます。

決闘の約束が、帰る理由を奪っていく

トルフィンは寝込みを襲って仇を殺すのでなく、決闘で勝つことにこだわります。それは本人にとって譲れない筋の通し方でもありますが、アシェラッドにとっては、少年を思い通りに動かせる条件になります。

戦場でいくら優れた動きをしても、アシェラッドの挑発には怒りを露わにする。復讐の相手を前にすると判断が狭くなることを、相手自身がよく知っています。剣の腕の差だけで負けているのではないため、戦いを重ねるだけでは関係が変わりません。

帰郷へつながるレイフの存在があっても、今さら何のために戻るのかを考えられない。仇を討つまで帰れないという決まりを、自分自身にも課しているように見えます。父を失った一日のために、その後の長い人生が全部使われてしまう。その時間の使われ方が痛ましいのです。

仇の助言で、トルケルに勝つ

トルケルは戦うことそのものを好む巨漢です。トルフィンが復讐のために戦い、アシェラッドが目的のために戦争を使うのに対して、トルケルには戦いの場へ居続けたい欲があります。同じ強い戦士でも、欲しいものが違います。

そのトルケルとの再戦で、トルフィンはアシェラッドの助言を受け、顎という弱点を狙います。父の仇の知恵を借りて、父の旧知の戦士へ対抗する。因縁が複雑になるほど、単純な仇討ちの図では読めなくなっていきます。

勝利にはトルフィンの身のこなしも必要ですが、彼一人の成長だけで成立したものではありません。アシェラッドは憎む相手であると同時に、少年に戦場の生き方を教えてきた相手でもある。その関係を温かな師弟関係へ言い換えてしまうと、利用され続けている苦さが消えてしまいます。

クヌートの決意には、切り捨てられたラグナルがいる

クヌートを自立させるため、アシェラッドは保護者であるラグナルを暗殺させます。王子の成長という目的のために、その王子が大切にしている人を奪う。本人のためという理屈が、本人の意思を聞かずに通される行為です。

ラグナルを失ったクヌートは、ヴィリバルドの語る愛をめぐって考え、自ら地上の人間を救う側へ立とうとします。内気な王子が命令を発するようになる変化には迫力があります。ただし、失った人への悲しみが消えたわけでも、そのための殺人が正当化されたわけでもありません。

アシェラッドは未来を動かす判断ができる人ですが、そのたびに誰かを代価にしています。トルフィンが目の前の一人に執着するのに対し、彼は集団や国の行く末を見る。しかし、視野の広さがそのまま道徳的な正しさにはならないと、ラグナルの死が教えています。

アシェラッドは、ウェールズか王子かを選ばない

スヴェン王は、アシェラッドのウェールズへの思いを見抜きます。母の故郷を守るのか、クヌートを守るのか。どちらを選んでも大切なものを失う条件を突きつけられ、アシェラッドは王を斬ります。

狂乱した王殺しを演じ、その自分をクヌートに討たせる。それによって王子が父の仇を討つ形を作り、ウェールズへの侵攻も止める。最後まで、自分の命も含めた配置を考えて動く人物です。

この決断には母への思いや王子への期待がある一方、トルフィンの復讐がどうなるかは中心にありません。ずっと仇を見つめていた少年に対し、その仇は別の土地と未来を見ていた。関係の非対称さが、最後の最後に突きつけられます。

だからアシェラッドの退場は、悪人が実は善人だったという種明かしにはなりません。残酷なことを重ね、守りたいものも持っていた。その両方を消さずに描くので、トルフィンが憎んでいた相手も、読者が見てきた相手も、一言で整理できなくなります。

仇が死んでも、復讐した人生にはならない

アシェラッドを刺すのはクヌートです。トルフィンは、自分の手で決着をつける機会を失います。仇が生きている間は、その人を殺すことが次の日を生きる理由になっていた。相手がいなくなっても、急に別の理由が生まれるわけではありません。

クヌートへ刃を向け、取り押さえられる少年には、英雄の物語を締めくくる達成感がない。長く続いた戦いが終わり、残ったのは、その間に自分が何をしてきたのかという問題です。ここで戦士としての活躍が、本人の救いと一致しなかったことがはっきりします。

戦闘の見応えを求めても読める章ですが、その速さに乗った後に静かに残るものの方が重い。父の教えを理解できないまま、父が離れようとした戦場で奪う側になったトルフィンが、今後どう生きるのか。8巻に始まる奴隷生活は、成功した復讐の後日談ではなく、失った目的の外で自分を作り直す時間になります。

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