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のだめカンタービレ

のだめカンタービレ・パリ編前半の考察|千秋とのだめに違う課題が来る

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のだめカンタービレ 10巻

対象: 10〜15巻

パリへ行けば、千秋とのだめは同じ場所で音楽ができる。日本編の終わりでは、それが大きな希望でした。ところが到着してから、二人の課題はむしろ別々になっていきます。千秋にはコンクールと仕事があり、のだめには音楽院での学び直しがあります。

近くに住んでいても、同じ速さで先へ進めるわけではない。千秋の活躍を喜ぶ気持ちと、自分がまだそこにいない焦りが、のだめの中で混ざり始めます。パリ編前半は、留学すれば願いがかなうという話の、その先を描く時期です。

対象はKC KISS通常版10〜15巻。指揮者コンクールの結果、のだめの初リサイタル、ルー・マルレ・オーケストラの再建準備までネタバレありで扱います。全13巻の新装版の巻番号とは対応しません。また、15巻時点でマルレの立て直しがすべて終わるわけではありません。

飛行機に乗れるようになっただけでは、指揮者にはなれない

千秋の渡欧を可能にしたのは、日本でのだめが行った催眠療法でした。ずっと越えられずにいた恐怖を、のだめの助けを借りて乗り越えたのです。パリ編は、その大きな障害を越えた二人が、次の仕事へ取りかかるところから始まります。

千秋はもともと外国語を使えるので、フランス語を一から覚える立場ではありません。現地で自分の意思を伝え、コンクールでは、言葉に苦労する日本人指揮者の片平元を助けることもあります。語学に苦しむのだめと同じ留学体験としてまとめると、二人の違いが消えてしまいます。

千秋が出場するプラティニ国際指揮者コンクールには、ヴィエラの弟子であるジャン・ドナデュウもいます。ジャンは千秋と優勝を争う指揮者です。憧れてきた先生のそばで学んだ人を相手にすることで、千秋の中の焦りも刺激されます。

千秋は予選で壁に当たりながらも立て直し、優勝します。しかし、これで一生の仕事が保証されたわけではありません。人から評価される結果を出したあとに、次の演奏をどこで、誰とつくるかが待っています。

片平を見ていると、指揮は見栄えだけでは決まらない

コンクールでは、千秋の分析力やジャンの華やかさに加えて、片平の独特な指揮が描かれます。大きく跳ぶ動きは初めこそ奇妙に見えますが、奏者を気持ちよく演奏へ導く働きがあります。

千秋は、動きの美しさや楽譜の理解だけを比べていれば十分ではないと知ります。オーケストラに何が伝わり、奏者がどう応じたかまでが、指揮の結果です。日本のSオケで学んだことが、プロを相手にする場で改めて試されます。

片平が優勝を逃しても、その指揮を聴いた人から仕事につながる評価を受けることも、この大会の大切な部分です。順位表は一列ですが、奏者や聴衆に届く演奏の仕方は一つではありません。千秋にとって、ライバルの長所を知ること自体が、今後使える経験になります。

のだめは「プリごろ太」から言葉を覚える

のだめはアパルトマンでフランクやターニャと出会い、音楽院での生活を始めます。ところが、耳が良く、ピアノを弾けることと、フランス語でレッスンを理解できることは別です。日本では周りに助けてもらえたことが、ここでは本人の学習を必要とします。

フランクの持っているフランス語版「プリごろ太」が、その突破口になります。すでによく知っている内容だからこそ、聞き慣れない言葉へ興味をつなげられる。勉強嫌いという一言で片づけていた人の集中力が、好きなものを通すと別の形で現れます。

この場面は、のだめなら何でも耳だけでできるという証明ではありません。本人が繰り返し聞きたいと思える入り口を見つけた、ということです。その一方、授業や日常の意思疎通には、作品の台詞を覚えるだけでは足りない場面もあります。得意な力を使いながら、できないことを埋める日々が続きます。

オクレール先生が止めるのは、のだめの近道

音楽院で指導するシャルル・オクレールは、のだめの才能を見込んで留学を勧めた人です。だからこそ、目立つ曲を弾けたらすぐ舞台へ出してくれる先生だとは限りません。楽譜を読み、作曲家や作品について考え、音楽を自分の中で育てる時間を求めます。

のだめは千秋と共演したい。千秋が次々に仕事へ進むと、自分も早く成果を出したくなります。しかし、誰かの隣に立つ期限から逆算して練習すると、今学ぶべき曲が遠回りに感じられてしまいます。

オクレールが見ているのは、のだめが自分で作品を理解し、選んだ音に責任を持てるかどうかです。耳で覚えた演奏を再現できても、何を弾いているかを人任せにしていては、次の曲で同じ問題に戻ります。「自由に弾く」ためにも、考える土台が必要になります。

のだめの個性を学校が押さえつける、という対立にしてしまうと、この指導の狙いが見えません。才能があると認めたうえで、その才能を急いで使い切らせない。励ましの形が、本人の望む即座の評価と一致しないところに、師弟関係の難しさがあります。

初リサイタルでは、自分の演奏を聴く人がいる

15巻では、のだめがブルターニュの城で初めてのリサイタルに臨みます。城主はモーツァルトを愛する人物で、のだめはその音楽への理解を問われます。衣装の騒動もあり、いつもの滑稽さを残しながら、本人が一人で舞台を引き受けます。(講談社・通常版15巻)

演奏会は成功します。その価値は、千秋にうまいと言ってもらえたことだけではありません。のだめを聴きに来た人たちが、彼女の解釈した音楽を受け取る。恋人や先生以外にも演奏の届く先がある、と経験する場面です。

音楽院での地道な勉強と、舞台で自由に弾く喜びが、ここでつながります。勉強を終えて個性を取り戻したのではなく、勉強してきたことによって選べる音が増えた。その過程を見てきたから、晴れの場にも手触りがあります。

マルレの問題は、千秋が棒を振れば解消するのか

一方の千秋には、ルー・マルレ・オーケストラの常任指揮者という仕事が来ます。実際に関わると、人手や練習、運営の問題が重なった楽団であることがわかります。理想の演奏を説明する前に、演奏できる体制を整える必要があります。

15巻ではオーディションによる立て直しが進みます。良い指揮を見せて全員の心が変わり、一度の演奏会ですべて解決する話ではありません。人を集め、力量を見て、同じ舞台をつくれる組み合わせを考える。千秋が音楽家として背負う仕事が、ここでさらに広がります。

のだめは自分の一曲を育て、千秋は大勢が演奏する場を育てている。パリへ来た二人の歩幅は違いますが、その違いを埋めるために相手へ急がせることはできません。前半を読み返すと、同じ舞台に立ちたいという願いを支えるのは、離れて取り組む各自の時間なのだと見えてきます。

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