本ページはプロモーションを含みます。

MONSTER

MONSTERの感想|ヨハンを追う道で、テンマが助けてしまう人たち

MONSTERの感想|ヨハンを追う道で、テンマが助けてしまう人たち

原作の対象巻を読む

MONSTER 完全版 デジタルVer. 1巻

対象: 1〜18巻

全巻まとめ買いの案内へ

ヨハンに早く追いついてほしい。そう思いながら読むのに、テンマが道中で出会う人たちの話も飛ばせなくなります。

MONSTERの主人公・天馬賢三は、殺人犯の疑いをかけられた脳外科医です。自分が救った少年ヨハンの犯罪を止めようと旅を続ける。その途中でも病人や傷ついた子どもを放っておけず、治療のために足を止めてしまう。事件を追う目的だけなら遠回りになる行動が、テンマという人をよく伝えます。

浦沢直樹によるサスペンスで、通常の単行本は全18巻です。紙の完全版は全9巻、電子書籍の『MONSTER 完全版 デジタルVer.』は全18巻に再編集されています。この記事の巻数は18巻構成に合わせ、最終話までのネタバレを含めます。

最初の手術は、出世を捨てる選択だった

ドイツの病院で働くテンマは、院長の娘エヴァとの婚約も決まり、順調に地位を築いています。ただ、患者より院内の都合が優先される環境に、違和感を持ち始めていました。

頭部を撃たれた少年ヨハンを手術しようとしたとき、院長は市長の治療を優先するよう命じます。テンマは従わず、先に運ばれた少年を救う。その結果、出世の道も婚約も失います。

この時点のテンマが、ヨハンの将来を知るはずはありません。運び込まれた子どもを見て、助けようとしただけです。後にヨハンが殺人者だと知った読者は手術の意味を考え直しますが、あの瞬間に戻っても、医師が使える情報は変わらない。物語は、その時点の正しさを後の出来事が揺らし続けるようにできています。

しかも病院の上層部が殺されると、テンマは再び出世する。自分が願っていない方法で障害が取り除かれ、利益を受けてしまいます。9年後に再会したヨハンから真相を聞くまで、その因果を知らずに暮らしていたことも残酷です。

追う人であり、追われる人でもある

ヨハンはテンマの目の前で患者のユンケルスを殺し、過去の殺人を語ります。テンマは彼を止めようとしますが、警察にとってはテンマ自身が有力な容疑者です。

ルンゲ警部の確信は強く、ヨハンの存在を訴えるほど逃げ道が狭くなる。読者はテンマが無実だと知っていても、その知識を捜査官に渡せません。事情を話せば分かってもらえるという期待が、なかなか通らない緊張があります。

そんな旅でテンマが出会うのが、里親から虐待されている少年ディーターです。助けた後も関わりを断ち切れず、少年は旅についてくる。犯人探しの効率から見れば、守る相手が増えるのは負担です。それでも、この子を元の場所へ戻さないことがテンマには必要でした。

ディーターとの場面が入ると、ヨハンを救ったことで奪われた命ばかり数えていた読み方にも変化が起きます。テンマが生きて動いているから助かる人もいる。主人公の責任を、一件の手術の結果だけへ縮められなくなります。

ヨハンが怖いのは、相手の話を聞けるから

ヨハンは威圧するばかりの人物ではありません。穏やかに近づき、相手が隠している傷や願望へ入り込む。気づいたときには、その人自身の言葉や記憶が逃げ道を塞いでいます。

テンマも患者の事情に耳を傾けます。二人とも相手に近づく力を持つのに、近づいた後で何をするかが違う。ヨハンが関わった人の孤立と、テンマを助けようとする人の広がりが、追跡の両側で少しずつ見えてきます。

ただ、ヨハンを最初から何も感じない存在と決めると、絵本『なまえのないかいぶつ』に出会ったときの反応を見落とします。彼自身にも、思いがけず足元を崩される記憶がある。計画を立てて他人を動かす人物が、自分の来歴を探し始めることで、事件の向かう先も変わります。

ニナが思い出すほど、過去の説明は難しくなる

ニナ・フォルトナーは、ヨハンの双子の妹アンナです。養父母のもとで育った暮らしを壊され、兄を追う過程で幼い頃の記憶を取り戻していきます。

東ドイツの511キンダーハイム、プラハの「3匹のカエル」、赤いバラの屋敷。場所が明らかになっても、一つの施設が一人の怪物を完成させた、という簡単な説明には落ち着きません。

特に、赤いバラの屋敷へ連れて行かれたのはアンナで、ヨハンは妹から聞いた記憶を自分のもののように受け取っていた、という違いは大切です。怖い記憶が誰のものだったかを確かめることが、人物の理解そのものを変えます。

また、同じように大人の企みに巻き込まれた兄妹が、同じ道を進んだわけではありません。過去を知ることは行動の背景を考える助けになりますが、今の行為をすべて説明し終える鍵にはならない。ニナが兄へ向ける態度にも、彼女がその後に生きてきた時間が表れています。

グリマーの笑顔を、後から思い出す

グリマーは、511キンダーハイムを調べるジャーナリストです。自身もその出身者で、感情の表し方を学んで笑顔を作っていると語ります。息子が死んだときにどう反応すればよいか分からず、家庭も失いました。

けれど、事情を聞いた途端に、それまでの親切が全部偽物になるわけではありません。テンマの逃亡を助け、子どもを気にかける行動は確かにあった。彼自身の説明と、周囲が受け取る温かさの間にずれがあります。

最後のルーエンハイムでは、人を守るために戦って致命傷を負います。過去に何を奪われたのかを、本人がようやく感じられるところまで来たのに、これからの時間が残っていない。事件の解決へ向けて話が加速する中で、グリマーの場面だけは立ち止まって読みたくなります。

テンマは、もう一度ヨハンを手術する

終盤、ヨハンが企てた町の惨劇は、彼自身が頭を撃たれる事態へ進みます。テンマは再び手術を行い、ヨハンを救命します。

一度目と違って、今度は相手が何をした人物かを知っている。旅の間に銃を手にし、殺して止めようとまで考えた医師が、最後には目の前の患者を治療する。それまでの迷いが長いからこそ、同じ手術を繰り返すことの意味は変わります。

ただし、これでヨハンが改心したと決まるわけではありません。最終話に残るのは、人のいない病床です。なぜ姿を消したのか、その後どうしたのかは描かれません。

全18巻を閉じたあと、謎の余韻と一緒に残るのは、テンマの旅に関わった人たちの顔です。救われた人、間に合わなかった人、もう一度暮らしを始める人。ヨハン一人を見失う怖さのそばに、それでも消えずに続く生活がある。その両方を描く長さが、MONSTERには必要だったのだと思います。

本ページはプロモーションを含みます。

この編を読むなら

電子書籍ストアやAmazonで、巻別購入・まとめ買いをチェック

全巻まとめ買い

MONSTER 全巻まとめ買い

作品全体をそろえたい方はこちら。収録巻と版を各ストアでご確認ください。

※ 上記リンクから購入すると、サイト運営の支援になります。価格は各ストアにてご確認ください。