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MONSTERの結末を考察|ルーエンハイムの惨劇と、空のベッドに残る問い

最後の手術で、テンマはヨハンを救います。相手の正体を知らずに助けた序盤とは違い、今度はその命が何をしてきたかを知っている。
MONSTERの結末を考えるとき、空になったベッドだけへ目が向きがちです。そこへ至るルーエンハイムでは、殺そうとする人、守ろうとする人、かつての判断を訂正する人が、それぞれ別の行動を取っています。その積み重ねを見てから最終話へ戻ると、残された問いの形も変わります。
対象は通常単行本・完全版デジタルVer.の15〜18巻です。紙の完全版は全9巻で巻立てが異なります。電子版の編集方針は小学館の案内で確認できます。以下、最終話までのネタバレです。
ルーエンハイムは、過去を隠して暮らす町だった
ルーエンハイムには、フランツ・ボナパルタが宿の主人として暮らしています。双子の誕生や人格改造の実験に関わり、絵本も描いていた人物です。終盤になって贖罪のためにこの町を訪れたのではなく、身を隠していた場所が惨劇の舞台になります。
ヨハンが目指すのは、自分の存在の痕跡を消していく「完全な自殺」です。町の人が善良か邪悪かを確かめる実験だけをしたかった、と読むと、ボナパルタとこの場所が選ばれた理由が薄くなります。
町では住民同士の疑いが膨らむ一方、ロベルトら殺し屋も動いています。ヨハンの話術だけで全員が殺人者へ変わったわけではありません。武器を渡され、実際の襲撃が起きることで、隣人を見る目まで壊れていく。恐怖には、誰かが作った具体的な仕組みがあります。
その中でも人を保護する者がいるから、町全体を一つの集団心理だけでは語れません。惨劇を起こす計画と、それに従わない一人ずつの行動が、同じ時間に進んでいます。
ルンゲは、戦う前に自分の誤りを認める
テンマを犯人だと追い続けたルンゲは、調査の末にヨハンの存在へたどり着きます。ルーエンハイムでテンマと再会したときには、自分の誤りを認めて謝罪し、殺戮を指揮するロベルトのもとへ向かいます。
謝罪は、ロベルトとの対決より先にあります。認識を改めたルンゲは、テンマを追うために注いできた力を、惨劇を止めるために使う。その順番が、執念深さで人を追い詰めてきた捜査官の変化として大きい。
謝罪でテンマの逃亡生活が取り戻せるわけではなく、ルンゲの責任がなくなるわけでもない。それでも、その場で必要な行動は取れる。終盤の彼は、間違えなかった人物としてではなく、間違いを認めた後に動く人物として残ります。
グリマーの最期は、本人の怒りで戦った後に来る
グリマーは、ボナパルタを生きて裁きの場へ連れていこうとします。奪われた過去を明らかにするには、当事者が何をしたかを語らせなければならない。単に憎い相手を殺して終わらせるつもりではありませんでした。
ところが、殺し屋たちの襲撃で目の前の少女が撃たれます。彼は怒って戦い、相手を倒しますが、自分も致命傷を負う。今回は、意識のない間に「超人シュタイナー」が片づけたと切り離せる戦いではありません。
駆けつけたテンマとボナパルタの前で、グリマーは失っていた感情に触れます。息子の死を悲しめなかった過去を思うと、ようやく悲しめることが救いであると同時に、あまりに遅かったとも感じる。
ここを立派な最期だった、とだけ片づけたくはありません。表情を作って人と接しながら、他人を助けようとしてきた日々がある。その先に、もっと楽に人と暮らせる時間があってもよかった。彼の死は、実験が壊したものの大きさを、過去の説明より強く伝えます。
ボナパルタを殺すのはロベルト
ボナパルタはヨハンを撃とうとしますが、ルンゲとの戦いで傷ついたロベルトが現れ、彼を射殺します。ロベルトもその後に死にます。
自分の過去の行為に向き合い、ヨハンを止めようとしたことは描かれる。しかし、だから贖罪が完了したとまでは言えません。グリマーが望んだ、生きて事実を語らせる道もここで失われます。
さらに、ロベルトは511キンダーハイムでグリマーが知っていた、ココアを楽しみにしていた少年だったと分かります。同じ施設の傷を背負いながら、一方は人を守ろうとし、もう一方はヨハンの殺戮を助けた。
幼少期を知ったことでロベルトの罪が軽くなるわけではありません。それでも、最初から殺し屋として存在していた人物ではなかったと分かる。終盤の死者たちにも、物語の役割になる前の生活があったのです。
ヨハンの計画は、子どもの父親によって崩れる
ヨハンは少年ヴィムに銃を向け、テンマに自分を撃たせようとします。医師として命を救ってきた人物を、自分の最期を完成させる役に置く。テンマにとっては、子どもを救うことと引き金を引くことが目前で結びつけられます。
しかしヨハンを撃つのはテンマではなく、ヴィムの父親です。ヨハンが用意した通りの対決で終わらず、息子を守ろうとした人物が割り込む。
その後、テンマは頭部を撃たれたヨハンを手術します。殺人を見逃す宣言ではなく、瀕死の患者を治療するという行動です。犯罪への責任と、今ある命を助ける仕事を、彼は同じ判断で処理しません。
長い旅の末に最初と似た場面へ戻りながら、テンマが知っていることはまるで違う。その差があるので、手術は振り出しに戻る場面には見えません。ヨハンが望んだ役割を、そのまま引き受けずに済んだ場面でもあります。
空のベッドは、改心の証明にはならない
最終話でテンマは双子の母に会い、二人に名前が与えられていたことを知ります。病室でヨハンへ語りかける場面には、母がどちらの子を差し出そうとしたのか、二人を取り違えたのかという記憶が重なります。
ここには、母の意図を本人にも確かめきれない子どもの不安があります。実際に連れて行かれたのはアンナですが、母がどう選んだのかという問いは、それだけでは解けません。
そして最後に映る病床には、誰もいない。ヨハンがどこへ行ったかも、その後に何をしたかも示されません。逃亡して殺人を再開した、完全に改心して暮らし直した、というどちらの結論も、描かれた出来事だけからは確定できないものです。
一方、テンマやニナたちが事件の後も生きていく姿はあります。すべての秘密が明らかにならないままでも、続けられる仕事や生活がある。空のベッドの不穏さを残しつつ、そこだけに登場人物たちの未来を預けないところが、この結末の好きなところです。
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