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原作の対象巻を読む
葬送のフリーレン 1巻
ヒンメルは、冒険の途中によく立ち止まります。人を助け、頼み事を引き受け、自分の銅像を作らせる時にはポーズにも注文をつける。その一つひとつは、魔王を倒すという目的だけを見れば、回り道に思えます。
ところが彼の死後、フリーレンが同じ土地を訪れると、その回り道が人の暮らしに残っています。『葬送のフリーレン』の序盤は、失った相手を思い出して悲しむだけでなく、すでに持っていた記憶の意味を知り直す物語です。
対象は少年サンデーコミックス版の1〜4巻。ヒンメルとの別れから、アウラとの決着、ザインが一行を離れるところまでネタバレを含みます。4巻の終盤には一級魔法使い試験への導入も入りますが、ここでは道中の出来事を中心に扱います。
五十年後に、同じ流星を見る
魔王討伐を終えた四人は、半世紀に一度の流星を見て、次も一緒に見ようと約束します。フリーレンは五十年後に戻ってきますが、その間にヒンメルは老いている。同じ約束を守っているのに、そこへ持ち寄る時間が違います。
ヒンメルが亡くなり、フリーレンが葬儀で涙を流す時、後悔の対象になるのは、大きな約束を破ったことではありません。一緒にいた相手について、もっと知ろうとしなかったことです。十年の旅は実際に共に過ごした時間なのに、その長さだけで十分に理解し合えていたとは言えない。
この始まり方のおかげで、後の回想も完成した思い出には見えません。昔のフリーレンには聞き流していた言葉があり、今になって初めて分かる表情がある。読者も彼女と同じく、すでに終わった冒険を少しずつ読み直すことになります。
ハイターは、フェルンを託せる時間を作る
ハイターのもとで暮らすフェルンを、フリーレンは最初からすぐに連れて行くわけではありません。危険な旅に同行できるだけの力が必要だからです。そこでハイターは魔導書の解読を頼み、その間にフェルンが修業できる時間を作ります。
この頼み方には、フリーレンの性格をよく知っている旧友らしさがあります。ただ感情に訴えて引き受けさせるのでなく、本人が受け入れられる仕事と時間を用意する。ハイターの死後もフェルンが生きていけるように、別れより先に次の暮らしを整えています。
フェルンが魔法の腕を磨こうとする理由も、称号を得たいからだけではありません。育ててくれたハイターを安心させたい。その気持ちをフリーレンが受け取り、教える立場になることで、昔の仲間との関係が新しい師弟関係へ続いていきます。
旅立った後は、朝に弱い師匠を弟子が起こすような日常も増えます。大魔法使いだから生活のすべてが立派というわけではない。この小さな手のかかり方があるので、フェルンは保護されるだけの子供にはなりません。
ヒンメルの好きな花を、今から探す
銅像をきれいにする仕事で、フリーレンはヒンメルの故郷に咲く蒼月草を探します。彼が好きだった花を、本人がいなくなってから植えようとする。すぐに成果が出ない探索に時間を使う姿には、かつての旅でヒンメルが選んでいた寄り道が重なります。
ただ、故人のためなら無限に時間を使ってよいとも言い切れません。今はフェルンが一緒にいるからです。エルフにとって短い期間でも、人間の同行者には長い。過去の相手を大切にしようとすると、現在の相手の時間も考えなければならなくなります。
指輪の意味を知り直す場面も、同じ仕組みで響きます。ヒンメルが贈ってくれたものには、当時のフリーレンが十分に受け取れていなかった思いがあった。回想で彼を立派な人に説明し直すのでなく、残された物や場所を通して、彼女の理解が変わっていきます。
シュタルクは、怖いまま竜の前に立つ
村で英雄として慕われるシュタルクは、自分が竜を前に足をすくませていただけだと話します。周囲の評価と本人の手応えが大きくずれていて、強いと褒められるほど逃げられなくなっているようにも見えます。
フリーレンは、彼の鍛錬の跡やアイゼンとの関係から、前衛を任せられると判断します。実際の竜との戦いで、シュタルクは恐怖が消えたから勝つのではありません。震えながら踏みとどまり、身体に染み込んだ技術で竜を倒す。臆病さを取り去らずに戦士としての実力を示すところがよいのです。
後に魔族リーニエと戦う時も、傷を受ける怖さがなくなるわけではない。それでも相手の攻撃を見て、師匠との訓練を思い出し、自分にできることを選ぶ。勇気が特別な性格ではなく、その場で取る行動として描かれています。
アウラの天秤には、見えていない時間が乗る
アウラは魂を天秤に乗せ、魔力で上回った相手を支配します。フリーレンの魔力を自分より少ないと見積もって術を使いますが、その見積もり自体が間違っていました。フリーレンは師匠フランメに教わり、長年にわたり魔力を制限していたのです。
単に年上だから勝ったとすると、積み重ねの中身が抜けてしまいます。魔力の大きさを誇る魔族に対し、日常からそれを隠し続ける。その習慣を相手が軽視するため、強さを測る得意な方法が敗因になります。支配が逆転したアウラは、フリーレンの命令によって自ら命を絶ちます。
フェルンがリュグナーを倒す戦いにも、魔力の抑制と発動の速さが効いています。師匠が一人で敵を片づけるだけでなく、教わった人間が限られた年月で戦えるようになっている。過去のフランメの教えが、別の寿命を持つ弟子へ渡っている場面です。
ザインと別れられることも、旅の変化になる
ザインは、先に旅立った親友を探したい気持ちを抱えながら、村に残っていました。兄への遠慮もあり、時間を置けば置くほど出発しにくくなる。その姿を見たフリーレンが背中を押す時、かつてヒンメルに誘われた自分の経験が働いています。
一行に加わったザインは、若い二人の仲を取り持つ頼もしい大人です。しかし、親友の向かった先がフリーレンたちの進路と違うと分かると、別の道を選びます。せっかくそろった仲間でも、一緒にいることだけが正解ではありません。
その別れを必要以上に悲劇へせず、また会う可能性のあるものとして送り出す。ヒンメルを失った後悔から始まった旅が、今いる相手の望みを尊重するところまで進んでいます。過去を取り戻す旅ではなく、過去に教わりながら、次の人との過ごし方を変えていく旅なのです。
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