21世紀少年の結末を考察|ともだちの正体と、完全版で加わった対話

ともだちが死んでも、ケンヂには済んでいないことがあります。世界を脅かす最後の仕掛けと、子どもの頃に自分がしたことです。
『21世紀少年』は、『20世紀少年』の後日談であると同時に、最後まで残った問題を扱う完結編です。敵を倒した後にもう一度過去へ戻るので、長い物語の結末を待っていた人には、少し足止めされたように感じるかもしれません。けれど、その寄り道で初めて見えるケンヂの姿があります。
以下、ともだちの正体と完全版の追加エンディングまでのネタバレを含みます。映画版ではなく、漫画についての考察です。
通常版・紙の完全版・電子版の違い
『21世紀少年』は通常の単行本なら上・下巻、紙の完全版なら全1巻です。電子書籍の『完全版デジタルVer.』は、完全版を改めて上下巻に分けています。
| 読む版 | 冊数 | 結末を確認するときの目印 |
|---|---|---|
| 通常の単行本 | 上・下巻 | 最初に刊行された版 |
| 紙の完全版 | 全1巻 | 描き下ろしの完全版エンディングを収録 |
| 完全版デジタルVer. | 上・下巻 | 加筆修正された完全版を再編集 |
小学館は紙の完全版で追加エンディングの収録を案内しています。電子版の上巻と下巻にも、完全版からの再編集であることが記載されています。
昔の上下巻を読んだ記憶と、現在の電子版についての説明がかみ合わないときは、この違いを確かめると整理しやすくなります。この記事でも、完全版で加わった内容は区別して記します。
最後に残る危機は、反陽子爆弾
ともだちの死とフェスの終わりで、一度は大きな戦いに決着がつきます。ところが、反陽子爆弾による破滅の仕掛けが残っていました。
ケンヂたちは、子どもの頃の世界を再現するヴァーチャルアトラクションへ手がかりを探しに入ります。昔どこへ何を隠したか、どんな遊びをしたかが、現在の危機とつながっているからです。
現実では、敷島教授の娘が巨大ロボットにスイッチを踏ませようとし、ケンヂが乗り込んで止めます。過去の調査で得た手がかりを、仲間たちが現実での行動へつなぐ。ケンヂにも、かつて世界を襲った巨大ロボットへ再び向かう役割が残っていました。
カツマタにかかった疑いには、具体的な原因がある
ともだちの正体は、ケンヂたちの同級生カツマタです。理科室の幽霊のように語られていた、死んだことにされた少年。その記憶を確かめていくと、駄菓子屋のバッヂが出てきます。
カツマタは当たりくじを引いてバッヂを手に入れていました。ところが、ケンヂが別に盗んだことで数が合わなくなり、疑いが彼へ向かう。フクベエの言葉も加わって、カツマタは周囲から死んだ者のように扱われます。
ただ存在感が薄かったから忘れられた、という説明では足りません。誰かの行為があり、誤解があり、それを使ったいじめがある。最後に事件の大きさが小学生の買い物へ縮むことで、むしろ責任の所在が見えやすくなります。
ケンヂ自身が原因の一つを作っていた。世界を救う役を果たした後に、昔の自分がしたことから逃げられなくなるのです。
フクベエの死は、完全版で明示される
完全版のエンディングでは、フクベエが小学校卒業後の春休みに亡くなっていたことが示されます。大人になってフクベエとして現れた人物を、本人だと思って読んできた足場が変わります。
ここは、完全版で補足された内容を含む説明です。通常版の記憶だけをもとに、ともだちがどの時点で入れ替わったのかを考えていた場合、そのまま同じ前提でまとめると混乱します。
大切なのは、カツマタがフクベエの名を使っていたことです。人に忘れられた自分の名前を取り戻すため、素直に名乗ったのではない。他人の名前や、誰からも注目される「ともだち」という役割を引き受けていった。
だから、正体の答えが分かっても晴れやかな気分にはなりません。世界中に知られた存在になったのに、その人自身を呼ぶ名前は隠れたままだった。そのねじれが、覆面の不気味さを別の寂しさへ変えます。
ケンヂの謝罪は、被害者全員の赦しではない
ケンヂは、再現された過去でカツマタに向き合います。自分が盗んだこと、その結果カツマタが傷ついたことを、自分の問題として引き受ける。
この行動を、ケンヂがともだちの罪をすべて許した、と広げる必要はありません。多くの人が殺され、生活を壊されています。ケンヂ一人が彼らの代わりに赦すことはできない。
一方、相手が後にひどいことをしたから、自分の過去の行為をなかったことにしてよいわけでもない。自分が謝るべきことだけは、自分で謝る。その範囲に留めて読むと、終盤の対話はきれいごとだけではなくなります。
ヒーローとして大きなことを成し遂げれば、昔の小さな罪は帳消しになる。その気楽さを、作品はケンヂに与えませんでした。
屋上の場面に、完全版で対話が加わる
中学校の屋上と音楽の場面は、通常版から描かれています。カツマタはかつて命を絶とうとしましたが、ケンヂが流したT・レックスの「20th Century Boy」を聴いて踏みとどまり、友達になろうと近づいたことがありました。屋上の出来事全体が、完全版で初めて加わったわけではありません。
ケンヂが知らないところで、音楽はすでに一人へ届いていた。それを大人になってから知る。世界へ向けた大きな歌の前に、誰に届くか分からない一曲があったという順番が好きです。
完全版では、この場面に大人のケンヂと少年カツマタの対話が加わります。ケンヂは、自分の少年時代の姿へ声をかけるようにカツマタの背を押す。現実に起きた大量殺戮が消えるわけではありませんが、あのとき別の関わり方もあったと見つめる場面です。
『21世紀少年』を読む意味は、ともだちの名前を知ることだけではないと思います。名前を知った後で、その相手に何を言えるのか。巨大な陰謀を追ってきた物語が、最後には一人へ声をかける距離まで戻ってくる。その小ささを確かめるための完結編です。