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原作の対象巻を読む
呪術廻戦 1巻
人を助け、最後には人に囲まれて死ぬ。祖父の言葉を受け取った虎杖悠仁には、力を何に使うのかが最初からあります。しかし『呪術廻戦』は、その願いを持った少年が頑張れば、救うべき相手を救えるとは約束しません。
序盤から幼魚と逆罰編までは、通常のジャンプ・コミックス1〜4巻、第1〜31話に当たります。4巻には吉野順平を真人が利用する展開が収録され、その後は交流会へ進みます。本稿は虎杖の死と蘇生、順平の最期までのネタバレを含みます。
指を飲み込んだ瞬間から、助ける行為に期限がつく
虎杖は人並み外れた身体能力を持っていますが、最初から呪術師として生きる予定だったわけではありません。学校で呪いに襲われた先輩たちと伏黒恵を助けるため、宿儺の指を飲み込む。目の前の危機に応じた選択によって、自分の命が呪術界の処刑対象になります。
五条悟の働きかけで処刑は猶予されます。ただし、宿儺の指を取り込んだ先に待っているのは、宿儺ごと自分も消えるという役目です。人を救うために生きることと、自分が長く生きることが、出発時点から一致していません。
その状況を受け入れる虎杖の明るさには、危うさもあります。死ぬまでにできることをする姿勢は前向きですが、自分の死を早く意味づけすぎているようにも見える。まだ仲間や仕事をよく知らない少年が、人生の終わり方まで引き受けてしまうからです。
入学時に夜蛾から動機を問われる場面では、虎杖も一度立ち止まります。祖父に言われたからという説明だけでは、苦しい局面で責任を持てない。誰かから受け取った言葉を、自分で選び直さなければならないという問いが、戦闘より先に置かれています。
少年院では、誰を救うかさえ一致しない
虎杖、伏黒、釘崎野薔薇が派遣される少年院では、彼らの力を大きく超える呪いが待っています。引き受けた任務と現場の危険が釣り合わず、余裕のない状況で、それぞれの命の扱い方も表に出ます。
虎杖は遺体を家族のもとへ帰そうとします。一方、伏黒には、その死者が他人へ与えた被害を踏まえた判断がある。虎杖の願う救済を、そのまま全員の共通方針にはできない。人の価値をどう扱うかという問題が、実際に危険を冒すかどうかに直結してきます。
追い詰められた虎杖は、伏黒たちを逃がすために宿儺へ体を明け渡します。宿儺は特級呪霊を圧倒しますが、都合よく体を返しません。心臓を抜き取り、虎杖が戻れば死ぬ状態を作ったうえで伏黒と対峙する。内側の怪物が助けに応じても、助けを求めた側が安全になるとは限らないのです。
虎杖は主導権を取り戻し、その結果として一度死にます。その後、宿儺との縛りを経て蘇生するものの、一件落着にはなりません。本人が覚えていない条件を抱えた生還になっている。ここでの助かったという事実にも、後へ持ち越す不安が残ります。
七海は、少年を即戦力として使い切らない
生存を仲間に伏せて修業を続ける虎杖は、七海建人と組んで事件を調べます。会社勤めを経験した七海には、呪術師をきらびやかな使命として語らない落ち着きがあります。仕事の時間や役割を区切り、子供である虎杖へ大人の責任をそのまま押しつけようとしません。
その線引きが必要なのは、敵が人間を改造して戦いに使うからです。虎杖が倒した異形には、人間だった過去がある。姿が怪物に見えたから迷わず殴れた、では終われず、自分の拳が何に当たったのかを受け止めなければなりません。
七海はその負担を知りながら、一緒に現場へ立ちます。虎杖を褒めて勢いで進ませるだけでも、危ないから遠ざけるだけでもない。経験のある大人がそばにいてなお、守り切れないものがある。この関係ができた後で順平の事件を迎えるため、七海の存在は安心と限界の両方を感じさせます。
映画の話ができる相手を、真人は材料として扱う
順平は学校でいじめられ、他人への不信を抱えています。真人はその前に、気軽に話を聞く姿で現れる。順平にとっては、学校の理屈を疑い、自分の怒りを否定しない相手です。真人の怖さは最初から脅すことより、居場所のない人へ親密に近づけるところにあります。
そこへ虎杖が出会います。二人は映画の話で盛り上がり、順平の母・凪を交えて食卓を囲む。呪術師として説得する前に、一緒にいて楽しい時間が生まれています。この短い日常があるため、後の死は、まだよく知らない被害者が一人増えた出来事では済みません。
凪が殺されると、順平は誤った相手へ復讐心を向け、学校を襲います。虎杖は彼を止め、高専へ来る道を示す。話が届きかけたところへ真人が現れ、順平の魂を変形させてしまう。
真人にとって、順平との会話は一人の人間と関係を築く時間ではありませんでした。怒らせ、動かし、虎杖の心を壊すために使える存在だった。映画も母との暮らしも知る虎杖の前で、それらを持っていた体が壊されるため、人格を消費する残酷さが目に見える形になります。
順平が死んだ後も、虎杖の拳は間に合わない
虎杖は宿儺へ助けを求めますが、宿儺は応じません。順平は死に、真人と宿儺は虎杖の願いを嘲ります。内なる力を借りれば大切な人を救える、という期待が、ここでは明確に拒まれます。
虎杖は真人へ激しい怒りを向け、七海と共に追い詰めます。真人の領域に虎杖が侵入した結果、宿儺の魂にも触れてしまい、真人は反撃を受ける。しかし、それも順平を助けたいという虎杖への協力ではありません。宿儺は自分の領域を侵されたことに応じているだけです。
真人は逃げます。順平は戻らず、仇を討って気持ちを収める終わりにもならない。事件後に虎杖へ残るのは、呪術師として戦うことを続ける重さです。
誰かに正しく死んでほしいと願う前に、その人に普通に生きていてほしかった。順平の食卓を思い出すと、虎杖の理想がぶつかったものが具体的になります。序盤の四冊は、壮大な使命を得る物語であると同時に、まだ仲良くなれたはずの人を救えなかった少年が、翌日も仕事へ向かう物語です。
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