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鋼の錬金術師

鋼の錬金術師・旅の始まり篇の感想|ニーナを救えなかった兄弟が選ぶ道

原作の対象巻を読む

鋼の錬金術師 1巻

対象: 1〜6巻

エドワードは、間違いを見抜くのが早い少年です。リオールで教主の仕掛けを暴き、ショウ・タッカーが何をしたのかも察する。けれど、見抜けたことと、目の前の人を救えることは同じではありません。

『鋼の錬金術師』の序盤が厳しいのは、主人公に知識も行動力も与えたうえで、その力では届かない場面を描くところです。失った身体を取り戻す旅に出た兄弟が、他の人の失ったものまで見なければならなくなる。賢者の石を探すだけだった道は、次第に難しくなっていきます。

以下はガンガンコミックス通常版の1〜6巻を中心に、ヒューズの死と、6巻で描かれる兄弟の過去まで扱います。完全版とは巻の区切りが異なります。原作漫画のネタバレを含みます。

母を戻したかった二人に、別の帰り道が必要になる

エドとアルフォンスが人体錬成を試みた理由は、亡くなった母トリシャに会いたかったからです。材料をそろえ、知識を身につければ、失った日常も取り戻せるのではないか。その願いの身近さと、実行したことの大きさが釣り合っていません。

錬成は失敗し、エドは左脚、アルは全身を失います。さらにエドが右腕を代価としてアルの魂を鎧へ定着させたことで、二人は辛うじて一緒に生き続ける。ここで成立したのは母との再会ではなく、姿を変えてしまった兄弟の生活です。

エドの機械鎧は動くたびに頼もしく見えますが、ウィンリィやピナコの整備が必要です。アルの鎧も頑丈なだけの便利な身体ではなく、食べることも眠ることもできない。旅の目的を忘れそうな軽快な場面にも、身体を失った不自由さが差し込みます。

二人は国家錬金術師の権限を足場に、元の身体へ戻る方法を探すことになります。ただし、権限を得ることには軍に利用される可能性も伴う。エドの才能が、弟を助けるためだけに自由に使えるわけではないと、序盤から示されています。

コーネロを倒しても、ロゼの明日は作れない

リオールのコーネロは、賢者の石を使う錬金術を神の奇跡として見せ、信者を集めています。エドはその企みを明るみに出しますが、恋人の蘇生を願っていたロゼにとっては、頼っていた希望が壊れる出来事でもあります。

コーネロの嘘が暴かれることは必要です。それでも、ロゼがこれからどう生きるかを、エドが錬金術で用意できるわけではない。母を取り戻そうとして失敗した本人が、似た願いを持つ相手の前に立つため、正論の気持ちよさだけでは済まない場面になります。

街を去れば事件がきれいに終わるわけでもありません。ホムンクルスたちは混乱へ介入し、人々の信仰や不満を別の目的に使おうとする。一つの嘘を見破る少年の視野の外で、さらに大きな仕組みが動いています。

タッカーの研究室で、知識は救済に届かない

ニーナと犬のアレキサンダーは、兄弟と過ごす時には研究材料ではなく、親しい相手として描かれています。その二人をタッカーが合成獣へ変えたと分かった瞬間、それまでの穏やかな場面の意味が反転します。

タッカーは国家錬金術師の資格を保つため、娘まで成果の材料にしました。以前作った、人の言葉を理解する合成獣には妻が使われていた。査定が迫っていた事情はあっても、それで他人の人生を差し出してよいことにはなりません。

エドが怒りをぶつけても、ニーナを元の身体へ戻せない。この無力さが事件の中心です。悪い研究者を殴れば解決するなら、まだいつもの冒険へ戻れる。しかし、取り返せない結果がその場に残ります。

タッカーは兄弟の人体錬成と自分の行為を重ねようとしますが、同じ禁忌に触れたというだけで、選択も責任も同じになるわけではありません。エドの痛みを理解する言葉を、自己弁護に使うところまで含めて残酷です。やがてスカーがタッカーとニーナを殺し、兄弟には救えなかったという事実が残されます。

スカーの襲撃で、兄弟の後悔が食い違う

国家錬金術師を狙うスカーは、エドの機械鎧を破壊し、兄弟を追い詰めます。エドはアルを助けるため自分の命を差し出そうとしますが、危機を脱した後、アルはその判断に怒ります。

エドには、弟をこの身体にしてしまった責任がある。けれどアルからすれば、兄まで失って一人で残されることは望んでいません。相手のためだと思う自己犠牲が、相手の願いと一致しない。二人の仲がよいからこそ、はっきり衝突させる必要のある場面です。

また、スカーがイシュヴァール殲滅戦の生存者であることで、軍の肩書きも違う面を見せます。エド本人が戦争へ参加したわけではなくても、国家錬金術師は人によって恐怖や憎しみの対象になる。便利な資格として手にしたものに、すでに他者の歴史が刻まれています。

賢者の石は、代価を消してくれるものではなかった

兄弟はマルコーの資料を解読し、賢者の石が生きた人間を材料とすることを知ります。第五研究所へ入るのは、その先の調査です。万能に見えた力は、何の犠牲も払わなくてよい抜け道ではなく、すでに誰かが犠牲を払った結果でした。

研究所では、魂を鎧に定着させられた番人と戦います。アルと同じような状態の相手が敵として現れるため、単純に壊して終わる判断もしにくい。身体の形では人間を区別できないという問題が、遠い議論でなく兄弟自身へ返ってきます。

バリーの言葉により、アルは自分の記憶まで作り物ではないかと疑います。ここで必要になるのも新しい錬金術ではありません。ウィンリィに兄の苦しみを知らされ、二人で話すことで、互いが何を心配していたかを確かめる。石を探す大きな旅の中に、言葉を交わさなければ埋まらない距離があります。

ヒューズの死を、まだ兄弟は知らない

軍の記録から陰謀に気づいたヒューズは、エンヴィーに殺されます。妻グレイシアの姿を使われたために反撃をためらう場面では、普段の家族思いな性格がそのまま弱点にされる。賢さや軍人としての腕前とは別のところを突かれる死です。

葬儀を迎えるマスタングたちに対し、旅の途中の兄弟は、まだ訃報を知りません。世話になった大人がいなくなったことを、読者だけが知っている時間が続く。だから、次の土地へ向かう兄弟の姿にも、単純な明るさだけを感じることはできなくなります。

師匠イズミとの再会では、兄弟が隠していた人体錬成の過去を打ち明けます。厳しい師匠にも、同じ禁忌を犯した経験があった。救えなかったものを一度に取り返す答えはまだなくても、その痛みを知る人には出会える。序盤は、二人だけで背負っていた旅が少しずつ外へ開かれるところまで読ませてくれます。

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